任正華は台湾の1980年代を代表する漫画家の一人。鋭い視点で人が持つ善悪の矛盾を描き出す。劇画とファンタジーを融合させたタッチで、古典と現代を自在に操る。抜群のユーモアと風刺を交えながら、心の闇を浮かび上がらせる。繊細だが諧謔的な画風でのびやかな作品を生み出した。
『人肉包子(人肉饅頭)』は中国古代を背景にした物語。わんぱくな男の子・阿奇は、放課後に古道具屋「異宝斎」へ遊びに行き、店主・千爺さんから物語を聞くのが好きだった。「異宝斎」にある古道具はガラクタにしか見えないのに、千爺さんは、阿奇では弁償しきれない貴重な宝物だと言うのだ!
この日、突然、みかじめ料をせしめに三人組のチンピラ「黒街三帥」が現れた。どさくさに紛れ、阿奇とチンピラは千爺さんが立ち入り厳禁としていた部屋に迷い込んでしまう。不思議なことに部屋はドンドン増えていく。後に阿奇は自分が別の時空に入り込んでしまったのを悟る。そこでは、美しい一人の女性が蒸篭から立ち上ってきた。その肉まん売りの妖艶な女性は謎に包まれている。なんと、彼女が売っている肉まんの中身は人肉という噂があるのだ…だが、なんともおいしい!これは悪夢か現実か?夢ならなぜ目が覚めないのか…
美しいキャラクター設定に、青少年漫画のスピード感、インパクトある絵柄を兼ね備えた作品。だが、仁正華の作品のすごさは、こういった表面的なビジュアルだけではない。時空を飛び越え、ドタバタと進んでいくストーリーの中に、東方社会の女性への足かせをテーマに盛り込むと同時に、「妖vs.人」、「真vs.嘘」「偽物の神vs.本物の妖怪」といった視点をも含ませた。「噂の殺人」は『漫漫画人間』のテーマと呼応するものがある。作品が発表されて30年。今、読み返しても古びることなく、現代社会に通じるテーマ。作品の多層的な語り口には感嘆するばかりだ。
腕白な男の子。古道具屋「異宝斎」で立ち入り禁止だった部屋に誤って入り込んでしまった。時空を超え古代中国へたどり着き、孫二娘と出会った。
「異宝斎」の店主。物珍しい古道具を集めるのが好きだが、ガラクタだと思われていた。阿奇と一緒に時空を飛び越えてしまう。
地元のチンピラ三人組。「異宝斎」へみかじめ料をせしめにきた時、阿奇と千爺さんと一緒に時空を飛び越えてしまった。神様だと誤解されている。
蒸篭で蒸した肉まんを売っている神秘的な女性。容姿端麗、性格はきつい。噂では彼女の売っている肉まんには人肉が入っていると…?
蕭嘯天の七歳の娘。天真爛漫で可愛らしい。阿奇と友達になる。