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あの街 (那城THAT CITY)

黃照達
大塊文化
2023年の金蝶賞(ゴールデン・バタフライ賞)銅賞
香港紙「明報」副刊のコラム漫画家、黄照達が香港の政治情勢などをテーマに描いた作品52篇を収録。平面デザインと実験詩の言葉で、もう昔には戻れないあの街に捧げる。
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あらすじ

『あの街』は、香港の漫画家、黄照達(ジャスティン・ウォン)が2020~21年に香港紙「明報」の副刊「星期日生活」のコラムに連載していた政治系シリーズ漫画。当初は『この街』というタイトルで、香港社会を風刺する時事漫画を掲載していたが、20年7月の国家安全維持法(国安法)が施行後、文章より漫画などの映像作品への検閲が強化され、タイトルが『あの街』に変更された。黄は21年に検挙され、香港からロンドンに移住。本作は香港での最後の作品となった。

コラムに連載された作品52篇を収録。テーマは香港の近年の政治情勢や公民意識、社会の雰囲気など。作品には変わってしまった香港への悲しみ、いたる所にある監視の目への怒り、社会の無関心に対する警鐘、そして香港人への優しさが込められている。

黄の漫画スタイルはアメリカの漫画家、クリス・ウェアの影響を受けており、平面的、幾何学的なデザインが特徴。政治的な問題をテーマとしながらも、鋭い批判を突きつけるわけではなく、シンプルで抽象的なイラスト、実験的な構成、詩的・哲学的でユーモラスな言葉で読者に考えさせる試みとなっている。香港人の不屈の精神、隠れた葛藤と沈黙の抗議が伝わってくる作品で、感慨深い読後感が味わえる。

作者

黃照達

1974年生まれ。香港の漫画家、メディアアーティスト。香港中文大学芸術学科を卒業後、香港とロンドンでアート、インタラクティブ・デジタルメディアを専攻。その後はデジタル時代における従来型アートスタイルの可能性を模索。香港城市大学創意媒体学院、香港浸会大学視覚芸術院で教鞭を執った。2021年にイギリスへ移住。

漫画、イラスト、平面デザイン、アニメ、参加型インスタレーションなどを手掛ける。抽象的、シンプルな画風で、インパクトの強いデザインと読者に考えさせるスタイルが特徴。政治、社会の問題を題材とした作品が多く、2007年に「明報」で政治系コラム漫画『嘰嘰格格』を連載、2020年から明報の副刊「星期日生活」で『あの街』(元『この街』)を連載。

主な作品に『LONELY PLANET 1-2』、『HELLO WORLD』、『土製香港』(合集)、『80台北x90香港:漫画双城』(合集)、『那城THAT CITY』(あの街)など。

インスタグラム @little_pink_man

《那城THAT CITY》©黃照達/大塊文化