主人公の林初生は大学を卒業した後も夢を追いかけるあまり、親と衝突し家出してしまった。当座しのぎと思い何の気なしに入った職場は、なんと葬儀社だった。初日ですぐに逃げ出したくなったが、勝気で負けず嫌いな性格の彼女は辞めたい気持ちを押しとどめ、仕事に向き合うことにした。誰もが逃れられない死という絶対的な事実に接する中で、わがままな性格だった初生は自分の悩みのはかなさを知った。命の教育ともいえる日々に強い衝撃を受け、初生は改めて自分自身の問題と向き合うことを心に決めた。
生命を紡ぎ合わせるものの中で人と人の「関係」を表現するのは難しい。特に家族とはどんな欠片を紡ぎ合わせたものなのかを端的に描き出すのは簡単ではない。それを『送葬協奏曲』では人生のリアルな物語を通して切々と伝えてくる。父親の期待を背負いながら孤独死した男性、母の想いを受け止め生きることを諦めない病気を抱えた子供。遺体が見つからないため、死者の衣類だけを埋めて墓に見立てた衣冠塚…そして、世間的にありふれた出来事だが遺産相続をめぐる一族の争い。こういった様々な死をめぐるストーリーを通じて、人生の最終章はどう生きるべきなのか?というテーマを読者に問いかけてくる心揺さぶる作品だ。
漫画家の韋蘺若明は、みずから葬儀社で台湾の伝統的な葬儀を徹底的に取材した。作者自身が見聞きした葬儀師と送り人のリアルな日常のエピソードをもとに人生の幕引きをめぐる物語を描き、読者の心に迫る。葬儀師をテーマとした「お仕事系漫画」のようにも見えるが、この作品は主人公である林初生の葬儀師としての視点から切り取った「人生ドラマ」だ。人の本質、人間関係、思い残したこと、人との和解など、林初生を通じて読者に届けられる様々な人間模様は、ドラマや映画となっても、きっと見ごたえのある作品となるだろう。
21歳。有名大学を卒業後、家出をした後、ひょんなことから葬儀社で仕事をすることに。単純で素直な性格。葬儀社での仕事というインパクトのある経験を経て、彼女は生活に対する態度を考え直すことになる。
33歳。小規模な葬儀社の二代目。夢を諦め家業を継いだ。穏やかで温和な性格。長い事、病に臥せっている父親を一人で面倒見ている。
26歳。葬儀社の先輩。仰清に恩返しするため、葬儀社へ入った。普段はふざけて新人を怖がらせているように見えるが、真面目に仕事に取組む頼りがいのある先輩。